芸術家の労働市場
特に次の4点によって、芸術家の労働市場を特徴付けることができる。
1.極端に不平等な所得分布である。ほんの一握りの集団が所得全体の内の大部分を稼ぐ。
2.構造的な労働の過剰供給が存在する。需要に釣り合わない数の人々が、芸術家として所得を得たいと願っている。
3.労働に金銭以外の無形の代償がある。そのため、人々は本来よりも低い水準の賃金でも甘んじて受け入れる。
4.芸術家と作品が切り離せない。生産物が芸術家に与えるイメージが、芸術家にとって重要である。
◯スター現象
シャルウィン・ローゼンに由来するスター現象とは、市場で一握りの芸術家がその分野の収益のほとんどを稼ぐという現象である。文化産業では、生産物の質に関する不確実性が、スター現象に大きな役割を果たしている。消費者は、生産物がどれほどよいものなのか消費してみないと分からない(例えば、映画の場合)。また、文化産業において生産者も、典型的な不確実性に直面している。消費者は、価格の他に、評判や、カバーやポスターに載っている名前を参考にしている。生産者もそのことを理解しているので、高い質の印となるような著名人(スター)には大金を払う。アドラーやギンスバーハ(V. Ginsburgh)の研究によれば、スターの地位は偶然によって決まる。例えば、音楽コンテストの結果は、演奏の順番に強く依存している。
このスター現象の偶然性は、芸術分野で労働の過剰供給が存在する1つの原因とされてきた。スターの莫大な収入や非合理的な行動、リスク愛好的な選好のために、収入の多くを他の仕事から得ながらでも、成功しない芸術家は挑戦をやめないのである。芸術分野で労働の過剰供給が存在するもう1つの原因は、芸術家が労働から社会的地位という意味での無形の代償を受け取る可能性があることである。
◯生産構造
文化的財の生産には、通常の財とは異なる構造があるとされてきた。職人は、収入であるという観点でのみ、自分の生産物に関心を払っている。それに対して、芸術家は、生産物を自己表現であると見なすことが多い。そのため、芸術家は、自分の生産物に対して制限を課したいと願うのだろう。
参照:Wikipedia「文化経済学」