舞台芸術:ボーモルと文化経済学
ウィリアム・ボーモルとウィリアム・ボーエンの画期的な著作によって、ライブ・パフォーマンスの相対的な費用上昇に関して、「コスト病」という概念が導入された。コスト病概念によって、舞台芸術が政府の補助金への依存を深めていくことが理解できる。コスト病は、消費財が労働自体である場合に生じる。モリエールの劇『タルチュフ』を演じるには、1664年において、2時間と12人の俳優を要した。2007年においてもその事情は変わっておらず、やはり2時間と12人の俳優を要する。現代において、芸術業は、多くの人的資本投資を必要としており、それに応じてより多く賃金を支払われる必要がある。芸術家の賃金は、一般の人々の賃金と同様に上昇していく必要がある。賃金は経済の一般的な生産性に従って上昇していき、演劇の上演費用も一般的な生産性にあわせて上昇していく。しかし、俳優の生産性は上昇する性質のものではない。
このコスト病の問題に関して、舞台芸術の経済学のその後の研究は、次の2つの方向に進んだ。
第1に、生産のある種の領域では生産性の上昇が見られることに注意が向けられた。これは、コスト病の妥当性に疑義を示すものである。『タルチュフ』の例で説明すれば、一つの『タルチュフ』の上演を、技術の進歩によって以前に比べて多くの観客が見ることができるようになった。例えば、劇場の建築の改善や、マイクやテレビ、録音の出現によって、そのようなことが可能になったのである。
第2に、文化部門への補助金の配分に注意が向けられた。補助金は一般の人々の利益に合 ったものでないといけないが、文化部門への補助金は所得分配効果を持っている。例えば、文化部門への補助金で社会の中でも相対的に富裕な層は得をする。補助金が与えられる劇の観客が富裕層に偏っている場合や、補助金が少数のエリート芸術家集団に与えられるとき、この所得分配効果が働く。
参照:Wikipedia「文化経済学」